CDプレーヤーよ、さようなら…へ ちょっとだけPower up Ver.へ 150Ω:600Ω Ver. へ トップページへ戻る |
ぺるけさんがタムラのライントランス式に続いて公開されたFET差動バッファ式のUSB-DAC。「トランス式と聴感上の大きな違いはないと思う」(ぺるけさん)とのことですが、拙作のトランス式との比較も兼ねて作ってみました。ぺるけさんのサイトはこちら。
選別半導体など主要パーツの頒布をお願いし、回路構成や定数はそのままそっくり使わせていただきました。オリジナルとの違いは、メーンアンプが直熱3極管シングル(紆余曲折の末、全段差動から舞い戻ってしまいました!)なのでアンバランス出力のみとし、DC24Vに電源SWを設けた程度です。正面パネルのLEDは24V電源用で、PC認識用のLEDを別途付けるのは割愛しました(あの細かいAKI.DAC基盤のLED周りを老眼でさわるのはちょっと…)。
【回路図など】
下図はぺるけさんの回路図からキャノンコネクタ部分を除いたものです。電圧表示はR-ch実測値ですが、スイッチング電源電圧が24.2Vほど出るため、+側がぺるけさんのオリジナルよりわずかに高めになっています。
【部品配置の一部変更】 部品配置ですが、片方の15P平ラグ板に2列分の空き端子があるので、オリジナルにある5P立てラグを省略して、そこにあるLPFなどのCR類をこちらに移し、平ラグの取り付けスペーサをアース・ポイントとしました(右図の下側)。 また、DC24V引き込み部分(右図の上側)の2.2Ωを斜めに取り付けることで端子1個の空きを作り、そこにLEDの駆動抵抗5.6kを割り込ませました。 残りの平ラグ板の部品配置はオリジナルのままです。 AKI.DAC-U2704の基盤上の電解コンデンサ容量変更(計6カ所)もぺるけさんの作例通りです。 |
【ハラワタ】
毎度のことながら、見苦しくて恐縮です。 ↓ 卵ラグのところがアース・ポイントです。
【基本特性】
出力電圧 0dB.FSでR-chが1.073V、L-chが1.061V。その差わずか1.1%とはいえ、ヴォーカルなどソースによっては若干、音像がセンターから右へずれるのが分かるだけに、負帰還量で修正するかどうか、微妙なところです。まあ、普段の定位置から頭ひとつ左へ寄ればいいだけのことなんですがね…。
残留雑音 当方のミリバルやデジタル・マルチメーターでは0.05〜0.07mV。両方とも相当くたびれた機器なので精度は?ですが、歪率からの計算推定でも0.06mV前後なので大丈夫みたいです。
周波数特性 WaveGene+WaveSpectraで計測。タムラのライントランス式より高域が少しばかり落ちているようですが、当然とはいえ、ぺるけさんの作例と同じなので安心しました。
歪率特性 WaveGene+WaveSpectraのほか、別に1kHz(右下表の1kHz.A)についてはWaveGene+アナログ歪率計で計測。低出力での歪み率に相当差がついてますが、実態は両者の中間位なのかも…?。
|
【感想など】
完成直後の音は「聞きしに勝る」情けないものでした。中域から低域にかけてはモゴモゴ・どよ〜んと切れが悪く、高域は痩せていて、多少とも目をつぶれそうなのはメゾソプラノの音域程度。確か、6F6族の無帰還シングルアンプ(今どき、こんなものを作る人はいないでしょうが…)がこんな音だったような記憶があります。ぺるけさんの記事末のコメント「この時(完成直後)の音を聞いてがっかりしないでください」がなければ、即お払い箱にしたでしょう。
三日三晩通電しっ放しの後に出てきた音は、まったくの別もの。低域は軽めによく締まっており、中域はクリア、高域は艶が乗っていて、全体に透明感あふれる音色だと感じました。
駄耳には、タムラのライントランス式とはちょっと毛色が違うように聞こえます。トランス式の方が全体に音が厚く、高域の艶もより豊かなのに対し、FET差動式は音が解放されて自由に飛び跳ねるような爽快さを強く感じます。どちらも甲乙つけ難い本当に聴くのが楽しくなる優れものでして、CDプレーヤーははっきりともういらないですねえ(それにしても、ぺるけさんが唯一聞くに値するとおっしゃってるSTUDERのCDプレーヤーは、一体どんな音が出るんでしょうか!?)。
製作費はケースをおごったので、福沢諭吉さんお一人ではちょっと足が出ました。最後になりましたが、回路の公開と部品頒布をしていただいたぺるけさんに深く感謝いたします。(2012.09.19)
【追補】 周波数特性、歪み、残留雑音など測定データ的にはトランス式とFET差動式の間に大きな違いはないので、当初は、通電時間が増えるとともにFET差動式の音もトランス式に近づいていくのかなと思っていたのですが、逆に、毛色の違いがより鮮明になっていくような…。
FET差動式はローエンドまでよく伸びているのにトランス式のような重苦しさがなく、中高域もしっかりしていてワイドレンジ感を味わえるほか、息継ぎやキータッチのようなかすかな音もよく拾っていて、いわゆる「オーディオ的」にはトランス式を凌駕していると言っていいと思います。トランス式は、センターがビシッと決まって音のすわりもいいのですが、音場がFET差動式に比べやや狭く、音の切れも鷹揚なところがある感じです。
ここまではFET差動式に軍配をあげたみたいな書き方ですが、実は常用しているのはトランス式の方です。その最大の理由は、それぞれの音のリアリティというか存在感みたいなものの差。FET差動式の音はダイナミックでスマート、かつ綺麗ですが、どこか現実離れしたところがあって、個人的にはしばしば違和感を覚えます。一方、トランス式の音は、やや歯切れの悪さを感じるもののナチュラルでしっとりとした艶があり、ヴォーカルとか弦、木管の再生は秀逸だと思います。
もっとも、これは音に対する個人の嗜好の問題であって、トランス式とFET差動式の優劣の問題ではありません。念のため。(2012.11.02)